第一章




「ここまで来れば大丈夫かな」

周囲をきょろきょろと警戒しながら、フェリチータは敷地内の奥まで進んでいた。
目的の地点まであと少し。
身を隠す場所に選んだのは、ジョーリィが作った秘密通路だ。
ホムンクルスのエルモを人目につかないよう館に出入りさせるための、特別な道。
教えられなければ絶対にわからないほど、樹木や茂み、それに錬金術も使って上手くカモフラージュされている。

『他の人間には他言無用だ』

そう言ってジョーリィが教えてくれた時は、心から信頼してくれた証のように思えて嬉しかった。
エルモを含めた三人だけの秘密を共有することに、背徳感にも似たドキドキを覚えて胸が高鳴る。

「エルモともかくれんぼしたいな……」

人造人間という、倫理に抵触する存在である少年を、ファミリーの行事に参加させるのが不可能なのは重々承知だ。
大人数で遊ぶことができなくても、せめて一緒にいられる間は楽しく過ごしたい。
(その時はジョーリィも誘おう)
以前、三人で海岸を散歩した時は酷く億劫そうだった。
しかし、文句を言いながらも何だかんだと最後までつき合ってくれた彼は、本当は優しい人なのだと思う。
考え事をしながら歩いていた所為で、フェリチータは周囲への注意が散漫になっていた。
生い茂った草むらの中に片足を突っ込んでしまい、ガサガサと大きな音を立ててしまう。

「おい、こっちに誰かいるぞ!」

鬼たちの声が聞こえ、数人の足音がこちらに近づいて来る。
今すぐに逃げ出さないと見つかるだろう。けれども、動く気配で注意を引いてしまう可能性もある。
もしかしたら、逃げる方向にある秘密通路の存在まで気づかれてしまうかもしれない。
(どうしよう……!)
捕まってゲームオーバーになるか、三人だけの秘密が知られてしまうか。
迷う余地などなかった。
フェリチータはその場から動かず、身を縮こませて木の陰に隠れる。
見つかるとはわかっていても、できるだけ時間を稼ぎたかった。
段々と大きくなる話し声と足音に、心臓がバクバクと拍動する。
彼らからフェリチータの姿が見える位置まで、あと数歩。
覚悟を決めて、ぎゅっと両目を瞑った時だった。

「ここで何をしている」

深く低い声が鼓膜を震わせる。
たった一言発しただけなのに、冷徹とも感じられる声音の主が、その場の全てを支配した。


『Il giorno per Lei』第一章本文より抜粋
※読みやすいように改行を多くしています。
※実際の本文は縦書きです。





inserted by FC2 system