おあずけチョコレート




 暦の上では春だけど、まだまだ底冷えする二月の中旬。
 いつもと同じ時刻に登校したフェリチータは、教室に足を踏み入れた途端少し異様な空気を感じ取った。

「……?」

 注意深く見渡してわかったのは、クラスメイトたちのどこか落ち着きがない様子。
 隅の方で囁き合う女の子たちに、そわそわと目的もなく歩き回る男の子たち。
 不審に思いながらも自分の席に腰を下ろした瞬間、教室中の注目を浴びそうなほどの大声で呼びかけられた。

「おっはよーー!!」

 厳しい寒さを吹き飛ばすような溌剌とした声に振り返れば、煌めくような金髪がこちらに向かって突進してくる。
 見知った男子の元気そうな姿に、自然と笑みが零れた。

「おはよう、リベルタ」

 フェリチータが笑顔で挨拶を返せば、少年の目許に薄っすらと朱が差す。
 思いがけない反応に、どうしたのだろうかと少し心配しかけた時だった。

「何をうるさく騒いでいるんだ」

 怒りを滲ませた声音に注意を逸らされて、赤と金の頭が同時に後方へ回される。
 視界に入り込んだのは、青い髪が特徴的な背丈が低めの男子生徒。
 フェリチータの従兄弟である、ノヴァだ。

「ノヴァ、おはよう」
「あ、あぁ」

 先ほどリベルタにしたのと同じように挨拶すれば、ノヴァもまた目許を赤くした。
 普段とは明らかに異なる様子に、心配を通り越して不安さえも湧き上がりそうだ。
 だが、それは杞憂だったらしい。

「うるさいってなんだよ、ヒヨコ豆!」
「お前の声量は周りに迷惑だ。それに、僕をヒヨコ豆と呼ぶなと何度も言っているだろう!」

 ノヴァの険のある物言いに、リベルタが突っかかる。
 いつもと同じ光景だ。
 今にも取っ組み合いを始めそうな少年たちの睨み合いに、フェリチータは思わずクスッと笑ってしまった。
 彼らのやり取りは日常茶飯事なので、喧嘩を仲裁しようとするクラスメイトも今更いない。

(今日も元気そうで良かった)

 体調不良とは縁がなさそうな姿に、フェリチータはほっと安堵した。
 けれども段々とエスカレートする口論には辟易してしまう。
 力づくでも止めるべきかと考えていると、また別の少年に声をかけられた。

「あいつら……同じこと繰り返して、よく飽きねぇよな」
「アッシュ」

 呆れきった口調で呟く男子は、やれやれといった風に白灰の髪を掻き上げている。
 その長身を見上げれば、不憫そうな色を帯びた碧眼に視線を返された。

 「お前も大変だな。毎回巻き込まれて」

 同情するような口調で言われ、どう返事をすればよいかと曖昧に微笑む。
 はにかんだような仕種をするフェリチータを見たアッシュは、一瞬だけ柔らかい微笑を浮かべたが、すぐに意地悪そうに口の端を持ち上げた。
 ずいっと少女に歩み寄り、屈んで目線を合わせる。

「バカは放っておいて俺の相手をしろよ、イチゴ頭」
「え……?」

 低くなった声と、ぐっと近づいた端整な顔。
 彼の行動の意味を図りかねてフェリチータはきょとんと見返したが、焦ったような別の声に割り込まれて、真意を探ることは叶わなかった。

「ずりぃ! 抜け駆けすんなよ、アッシュ!」
「ひとりだけ目立つとは卑怯だぞ」
「うるせー。お前らがごちゃごちゃ言ってるからだろうが」

 アッシュの動きに反応したのか、リベルタとノヴァが睨み合いを一時休戦してこちらに視線を向けていた。
 だが喧嘩が終わったわけではなく、むしろアッシュも加わってますますヒートアップしていく。
 話しかけてきたのは彼らの方だというのに、三人だけでぎゃあぎゃあと騒ぎ始めてしまい、フェリチータはひとり取り残されてしまった。

(喧嘩するほど仲が良いってこういうことなんだね)

 そんなことをぼんやりと考えている内に、彼らの間で何かが解決したらしい。
 改まったように向き直ってきた六つの瞳にじっと見据えられ、フェリチータは思わず身構えたのだが。

「おい、チョコレート寄こせ」
「えっ」

 口火を切ったアッシュからの突然の要求を、瞬時には理解できなかった。
 条件反射のように訊き返し、意味を問うが、少年たちの耳には届かなかったようだ。
 混乱する少女に状況を詳しく説明することもなく、彼らは矢継ぎ早に声をかけてきた。

「イチゴ頭だって一応女子なんだ。持ってんだろ?」
「お嬢! オレも欲しい!」
「お前らは味見役には相応しくない。僕がもらおう」
「素直に欲しいって言えばいいじゃねぇか」
「僕は別に欲しいとは……っ」
「じゃあオレがノヴァの分までもらってやるよ」
「俺にも寄こせ、ヒヨコ頭」
「おい、僕の分だぞ!」

 また勝手に小競り合いを始める彼らを見て、三人集まれば男子でも姦しいのかと半ば感心してしまう。
 一体今度は何について騒いでいるのだろうかと考えて、先ほどまで言われた台詞を頭の中で反復する。

(チョコレート……女子……あ!)

 その二つの単語で、ようやく今日が何の日かを思い出した。
 男子諸君がいつもよりも女子を意識してしまう、溶けるように甘いイベント。

「今日ってバレンタインだっけ」
「そのとおり!」

 フェリチータの呟きに、リベルタが大きく頷いた。
 期待に満ちたエメラルドグリーンの瞳にみつめられれば、さすがに彼らが何を欲しているのかは容易に想像がつく。

 バレンタインデー。
 二月十四日に祝われる、女性が男性にチョコレートを贈る日。

 元々は宗教的意味合いがあったのだろうが、今では恋人間を問わず、女性が友だち同士でチョコレートを交換することも多い。
 それでもやっぱり、男性にとってのメインイベントは女性からの甘味の贈り物で。
 常日頃は恋愛に興味がない素振りを見せる者でも、この日だけは落ち着きを失うのは思春期特有の病のようなものかもしれない。

「オレは甘いもんあんま食わねーけど、今日は特別な!」
「お前からならもらってやる」
「さっさと寄こせよ」

 こちらの都合を考えず、好き勝手に要求してくるのに呆れ、怒る気にもなれない。
 しかし、フェリチータには彼らに言わねばならないことがあった。
 少々言い出しにくいが、どうしても伝えなくてはならない、大切なこと。
 三人から同時に音が止んだ奇跡のような一瞬の隙を突き、少女は素早く口を開いた。

「持ってない」
「へっ?」
「何?」
「あぁ?」

 フェリチータの宣言に、素っ頓狂な声を上げて少年たちは固まった。
 たった一言でこの場の主導権を握った彼女は、今度は言い聞かせるようにゆっくりと、だがきっぱりと言い切る。

「お菓子を学校に持ってくるのは校則違反だから、持ってきてない」
「……!!」

 根が真面目な少女の正論に、男子三人は絶句した。
 校内の誰もが浮き足立ち、教師すら半ば黙認しているような特別な日でも、フェリチータはきっちりとルールを厳守している。
 少年たちは驚いて目を見開いていたが、やがてばつが悪そうな表情に変わり、視線を泳がせた。
 最初に衝撃から立ち直ったのはノヴァだった。

「そ、そうだな。イベントだからって浮かれ、風紀を乱すのは許されない」

 焦っているような声音と、落ち着きのない仕種。
 クールな彼が珍しく取り乱している。
 それは当然、他の少年たちの格好の餌食となった。

「お前だって人のこと言えないだろ、ヒヨコ豆」
「僕は浮かれてなんかいない!」
「へぇ、豆ってことは認めるんだな」
「認めてない!!」

 同年代にも拘わらず、飽きずに喧嘩をする彼らはまるで幼子のようで。
 毎日繰り返される意味のない諍いに、フェリチータは小さく溜息をついた。




 ◇◇◇




「――ってことがあったんだよ」

 放課後、フェリチータが立ち寄ったのは物理準備室。
 来客用のソファに座り、目の前の人物に今朝の出来事を始終話して聞かせた。
 けれども。

 「くだらないな」

 この部屋の主であるジョーリィは、今までの会話を冷酷に一蹴した。
 物理教師であり、フェリチータの恋人でもある彼は、先ほどから実験に没頭している。
 せっかく会いに来たのに、邪険に扱われてしまうのがすごく寂しい。

(……つまんない)

 一方的に喋っているのが物悲しくなり、口を噤んで男の背中を眺めた。
 火気厳禁の作業をしているのだろうか、天井に昇る紫煙は見当たらない。
 縋るように白衣をみつめていると、不意にジョーリィが振り返った。

「それで? 君はそんなことを言うために、わざわざ私の研究の邪魔をしに来たのか?」

 メガネ越しの眼は若干の苛立ちを含み、やや剣呑な目つきをしている。
 怒らせてしまったのかと、フェリチータは慌てた。

「ご、ごめんなさい」
「同じ邪魔をするのならば、さっさと用件を言うんだな」

 ジョーリィは身体ごとフェリチータへ向き直り、作業台に軽く寄り掛かった。
 ポケットに両手を突っ込んで佇む態度は決して愛想が良いとは言えないが、フェリチータの話に耳を傾ける気にはなってくれたらしい。
 かまってくれるのだ、と乙女の心は嬉しくなる。

「特に用事はないよ。ただ、話したかっただけ」
「……君は自分が言ったことをもう忘れたのか?」
「え?」

 ジョーリィの言わんとすることがわからなくて、フェリチータは首を傾げた。
 思い返すが、さっきまで喋っていたことといえば、独り言に近い他愛もない話。
 クラスメイトたちとの日常以外に、何か口に出しただろうか。
 難しい顔をして悩む少女に、男はうんざりした素振りで肩を竦めた。

「君は何の話をしていた」
「リベルタとノヴァとアッシュが喧嘩した話だけど……」
「原因は?」
「……えっと、バレンタインのチョコが欲しいって」
「そうだ」

 そこで一端言葉を切ったジョーリィを見上げれば、意地悪そうに口角を持ち上げている。
 企んでいるような表情に、どんな皮肉や厭味を言われるのだろうかと覚悟したのだが。

「私にはないのか?」
「ぇ……っ」

 予想外の台詞に、フェリチータは言葉に詰まった。
 ジョーリィは愉快そうな、それでいてどこか不満を孕んだ目で見返してくる。
 冷たいアメジストの中に微かな熱が灯った気がして、フェリチータは小さく震えた。
 はっきり答えるのは憚られ、遠回しに恐る恐る返事をする。

「だって……お菓子の持ち込みは校則違反だよ……」
「ああ、そうだったな」

 フェリチータの返答に、ジョーリィは喉を鳴らす。
 笑っているのに、紫の瞳には温かみが感じられない。
 恐怖で華奢な身を縮こませれば、教師はおもむろにメガネを外し、こちらへ近づいてきた。
 遮るものがない彼の双眸は酷く美しいのに、獲物を前にした獣のように獰猛だ。

「では、代わりに君をいただこう」
「え、あ!」

 気づいたら、ソファに押し倒されていた。
 覆い被さるように近づく顔が逆光で良く見えず、困惑する間もなく唇を奪われる。

「ふ……ぅっ……」

 素早く入り込んできた舌は、フェリチータの口腔を我が物顔で蹂躙する。
 絡み合い、柔らかな粘膜を吸われれば、理性がぐずぐずに崩れそうだ。

「だっ、だめ……!」

 更に深く口づけようとするのを拒もうと、顔を背ける。
 これ以上続けられたら、本格的に身体が疼いてしまう。

「ここ、学校です……先生」

 自宅であれば、拒否しなかっただろう。
 フェリチータだって恋人から求められるのは素直に嬉しい。
 だがここは神聖な学び舎で、今の自分たちは教師と生徒。
 非難を込めて睨みつけるが、ジョーリィの愉悦が滲んだ笑みは消えない。

「今までこの部屋に誰か来たことがあったか?」

 確かに、全校生徒のみならず教職員からも怖れられているジョーリィ専用の研究室を――物理準備室なので一応学校の設備なのだが、訪れる者などまずいない。
 今押し倒されている来客用のソファも、ほぼフェリチータ専用のようなものだった。

「そういう問題じゃ……っ、んぅ……っ」

 文句を言おうとした口は再び塞がれて、言葉ごと飲み込むようにキスをされる。
 息苦しいほどの深く長い口づけに、フェリチータは抗う間もなく欲情の波に流された。
 熱に浮かされた頭ではまともに理性が働かず、本能が貪欲に刺激を欲しがる。

「……せんせ、い」

 僅かに残った思慮分別を掻き集め、男を社会的立場で呼ぶが、甘い吐息が混じった声では逆効果で。
 ジョーリィの大きな手が性急にフェリチータの制服のボタンを外していく。

「ぁ……だめ……っ」

 あっという間にブレザーとブラウスを肌蹴させられ、胸許のリボンも解かれた。
 豊かな双丘を隠すのは、純白のブラジャー一枚きり。
 咄嗟に自分の身体を抱きしめるように両腕をクロスさせたが、あっけなく手首をジョーリィに掴まれてしまう。

「やっ……ぅ、ん」

 頭の上で両手首を纏められ、抵抗できない内に三度唇を落とされた。
 動きを封じられていなくても、もう拒絶はできなかっただろう。
 舌で歯列をなぞられると、ゾクゾクとした悪寒にも似たざわめきが四肢を駆け抜けて、フェリチータから力を奪う。
 ブラのフロントホックがあっさりと外されるのも、なすすべもなく許すしかなかった。

「甘いな」

 唾液が伝う口許を舐めながらジョーリィが笑う。
 きつい視線を送っても効果はなく、意地悪な恋人は楽しそうにフェリチータの目尻に舌を這わせる。
 涙を零していたのだと自覚した時には、彼の口は豊満な胸の先端まで移動していた。

「ひゃうっ!」

 左の頂を口内に含まれ、フェリチータは思わず叫んでしまった。
 硬度を持ち始めた飾りを舌で押し潰され、捏ね回される。
 反対の胸はやわやわと揉まれて、先端は指で摘まれる。
 微弱電流が全身を走るような感覚が快感だと覚え込まされたのは、ジョーリィと付き合うようになってからだ。

「あ……ぁん……っ」
「ククッ、そろそろこっちも甘くなってきたか?」

 ジョーリィの右手がするりとスカートの中に忍び込み、薄い下着の上から少女の中心を撫で上げる。

「きゃ、あ……あっ」
「濡れているな」

 言われなくても、擦りつけられたショーツの感触で愛液が滴っているのがわかってしまい、猛烈な羞恥に襲われる。
 これ以上恥ずかしいことはしないでほしい……と願いを込めてジョーリィをみつめたが、叶えられることはなくて。
 むしろ悪い笑みを一層深めた男は、手際良く下着を剥ぎ取ってしまった。

「せんせ……ひどい……っ」
「この状況で止めろと言う方がひどいと思うがね」

 そう言うや否や、ジョーリィの手がフェリチータ膝裏に差し込まれ、グイッと太ももを開かせた。
 スカートは捲り上がり、しとどに濡れた秘部がすっかり晒されてしまう。

「やだ……ぁ!」

 脚を閉じようとしても、間に滑り込んだ彼の身体が邪魔をする。
 両ももの付け根を強く押さえつけられ、下腹部を見下ろせばジョーリィのつむじが視界に入った。

「あ、や、待って……っ」

 脚の間に顔を落とす男が次に何をしようとしているのか思い至り、下がっていく頭を制止しようと手を伸ばす。
 癖のある黒髪が指に絡んだが、ジョーリィの動きを阻むことはできなかった。

「あっ……っぁぁ」

 内ももを強く吸われ、痕がついたことを確信した次には、膨らんで敏感になっている花芽が粘膜に包まれた。
 舌で転がされ、ぢゅぅぅと吸われれば、強すぎる刺激が全身を襲う。

「ンぅぅ……や、ん!」

 途切れることなく与えられる快楽に、フェリチータは呼吸をするだけで精一杯だ。
 喘ぎ声はどんどん大きくなり、もはやここが学校の物理準備室だということなど気にしていられなかった。
 尖らせた舌がぬるりと体内に侵入した感触で、無意識に中が収縮する。

「やっ、あ……あぁぅ」
「……我慢しなくていい」

 優しく息を吹きかけられ、襞を一枚一枚丁寧に舐められればもう無理。
 肥大した突起に舌先を叩きつけられた瞬間に、頭の中の熱がパチンッと弾けた。

「んっあ、あ、あぁぁぁん!」

 絶頂に達した衝撃で、蜜壺からは大量の愛液が溢れ出す。
 とろりとした甘い蜜を、ジョーリィはわざと卑猥な水音を立てて飲み干した。

「ゃ……あ……っ」

 死ぬほど恥ずかしいのに、とてつもなく気持ちが良い。
 彼の舌が入口を舐め回し、吸いつく度に、達したばかりだというのに新たな熱情が身を焦がしていく。

「ジョーリィ……せん、せ……ぇ」

 息も絶え絶えに恋人の名前を呼べば、あやすように頬を撫でられた。
 柔らかく微笑まれ、温かな幸せに満たされた気分に浸る。
 そのまま瞼を閉じて、微睡みかけたのだが。

「甘くて美味しかったよ、フェリチータ。満足な味だった」
「な……!」

 遠慮も羞恥もない、率直な感想を述べられて、フェリチータは一気に赤面した。
 驚きに見開かれる翡翠の瞳とは対照的に、ジョーリィは余裕たっぷりの態度を崩さない。
 にやり、と意地悪くも妖艶に笑い、真っ赤に染まった小さな耳に唇を近づけて低く囁いた。

「そろそろ……全部もらおうか」
「……!」

 緊張で固まってしまったフェリチータをよそに、ベルトのバックルが外される金属音が無機質に響く。
 蜜と唾液で濡れそぼった入口に硬い熱を宛てがわれると、早く雄を誘い込もうと、中が勝手にきゅんと疼いた。
 身体は正直に彼を求めているのに、学校での行為という背徳的な状況に心は怯み、口から出る言葉は弱々しい意地っ張り。

「満足したなら……もういいでしょ……っ」

 だが、その場しのぎの言い訳が通じる相手ではなくて。

「……ならば、俺の前で他の男のことばかり話した罰、という理由にしようか」
「えっ……あ、やぁぁあ!」

 何か特別なことを言われた気がしたが、前触れもなく挿入された衝撃で、脳が思考を放棄した。
 灼熱の塊を突き立てられ、甘い痛みと極上の快楽に翻弄される。

「あっ、ゃ……ぁぁんっ」

 敏感になった内側を彼の欲望で擦られれば、淫らな啼き声を上げてしまう。
 焦らすように腰を引かれると、中の屹立を離すまいと締めつける。
 意図的にできることではなく、官能を追求する身体の自然な反応。
 そしてそれが、より一層ジョーリィを昂ぶらせた。

「……っ、きついな……」
「や、ん……やぁぁ……!」

 更に膨張した猛りに攪拌され、淫靡な水音が結合部で奏でられる。
 耳を塞ぎたいくらい恥ずかしいのに、聴覚での刺激もまたフェリチータの快感を増幅させた。

「ぁ……ジョーリィ、せんせぇ……っ」

 一番奥を何度も突かれて、呼吸の仕方さえ忘れそうなくらいに何も考えられない。
 いつも以上に激しく揺さぶられ、瞼の裏に白い光がチカチカと瞬いた。

「やぁ……っ、も、だめ……ぇ!」
「っ、ああ……」

 切なげに限界を訴えれば、ジョーリィもまた艶色の滲む掠れ声で吐息を零す。
 細い腰をがっちりと掴み直されて、凶暴な矛先が勢いよく最奥を貫いた。

「ゃ、ァ……ああぁぁんっ!!」
「く……ッ」

 二人同時に達し、不規則な収縮を繰り返すフェリチータの中に男の欲望が注ぎ込まれた。
 体内で熱塊がどくどくと脈打つのを感じ取り、頭の芯がジンッと痺れる。
 ずるり、と抜かれれば、秘部から溢れた白濁がソファを汚した。

「はぁっ……あ、ぁ……あ」

 肩で息をするフェリチータの赤い髪を、ジョーリィの長い指がさらさらと梳いている。
 労わってくれているような仕種に、少女の心は幸福感で満たされていった。
 涙を浮かべたペリドットがみつめれば、恋人は優しい笑みを向けてくれる。
 笑い返せば背中に腕を回されて、力強く抱きしめられた。
 痛いくらいの抱擁で、彼らしからぬ行動に少々困惑する。

「ジョーリィ……?」

 思わず敬称をつけずに呼んでしまったが咎められることはなく、フェル、と二人きりの時だけの愛称を囁かれる。
 視線を合わせようと身じろぎすれば、逃がすまいとするように抱き竦められ、唇を重ねられた。

「……ふ、っん……」

 角度を変えて、何度も与えられる柔らかい口づけ。
 蕩けるようなそれは、どんなスイーツよりも甘い、至福の時間。

「チョコレートも君自身も、他の誰にも譲る気はない」

 教師という立場とは関係のない、恋人としての彼の言葉が紡がれた。
 フェリチータは自分の鼓動が早くなったのを感じながら、一心に紫紺の瞳を見据える。
 ジョーリィは口許で笑いながら、愛おしげに呟いた。

「俺だけを見ていろ、フェリチータ」





fine.




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