距離・後




 スミレの部屋を出て、フェリチータは迷う事なく錬金部屋を目指す。
 だいぶ遅い時間だが、ジョーリィが夜更けまで実験に没頭している事は周知の事実だ。
 なので寝室ではなく、彼専用の研究室へ足を向けた。
 話したい事、伝えたい事、聞いて欲しい事。
 理路整然と説明出来るように、頭の中で慎重に語彙を選ぶ。
 そんな風に、気もそぞろに歩いていれば、周囲への注意が散漫になるのは当然で。
 角を曲がった直後に誰かと正面衝突するまで、人の気配に全く気付けなかった。

 「ごめんなさ……ジョーリィ!?」

 たった今まで考えていた相手が、急に実体として眼前に現れ、混乱する。
 ジョーリィの方も軽く目を見開き、怪訝そうな表情を浮かべた。

 「こんな時間に何をしている?」

 尋ねられるが、すぐに反応出来ない。
 あんなに一生懸命話す内容を考えたのに、彼を目の前にすると、どうしても言葉に詰まってしまう。
 いっそ逃げ出してしまえば、どんなに楽だろうか。

 ――駄目。

 きちんとジョーリィと向き合わなければ、何も変われない。
 大好きな人との幸せを望むのならば、頑張らないと叶わない。
 フェリチータはぎゅっと唇を噛み、愛しい恋人を力強く見上げた。

 「私、ジョーリィが好き」

 「……は?」

 突然の告白に、ジョーリィの顔が驚きを滲ませる。
 サングラス越しの双眸は戸惑いに揺れていた。

 「好きだから、不安なの……!
  子どもだと思われて……飽きられるんじゃないかって」

 物言いたげに凝視されているのを感じ、慌てて説明を付け足す。
 知らぬ間に溢れた涙で視界がぼやけるが、拭う余裕なんてない。

 「大人になろうと頑張っても上手く出来ないし……。
  ジョーリィのこと、信じてるけど……不安で、足りなくて……!」

 意余って言葉足らず。
 支離滅裂になっている事は、分かっている。
 それでも、伝えないよりはマシだと願って。
 口を挟む事なく、黙って聞いてくれる彼を見据え、思い切って尋ねた。

 「こんな私のこと……ジョーリィは好き……?」

 徐々に語尾が消え入りそうになる。
 しかし、意地でも視線は逸らさない。
 ジョーリィは何も言わず、真剣な面持ちのフェリチータを見下ろし――

 「きゃッ!?」

 いきなり華奢な身体を抱き上げた。
 以前のような俵担ぎではなく、左腕は背に回して胴体を支え、もう片方の腕は膝裏に差し入れて脚を持ち上げている。
 所謂“お姫様抱っこ”状態で、フェリチータはいたたまれない気持ちに陥った。

 「降ろしてっ」

 けれどもジョーリィは相変わらず無言のまま、廊下を進み始める。
 不安定な体勢で、咄嗟に彼の首に両腕を回してしがみついた。
 身体が密着して安定性が増し、伝わる振動が小さくなる。
 揺れと反比例するように大きくなるのは、心臓の音。
 高鳴る鼓動がジョーリィにも届いてしまいそうで、身を縮ませた。

 怖いけど、幸せ。

 そんな矛盾する想いでぼんやりする頭を、胸板に預ける。
 青いシャツに触れた右耳に残るのは、彼の拍動だ。
 フェリチータ程ではないが、平常時よりも早く脈打っている事に一驚を喫した。

 ――もしかして……ジョーリィも緊張してる?

 確信の持てない思惟で、余計に落ち着かない。
 自分を抱き上げる恋人を仰ぎ見ても、沈黙を保ち続け目を合わせてもくれなかった。
 切なくなって、こっそり心の中を覗き込もうとした時、歩みが止まる。
 いつの間にか彼の寝室まで来ていたようだ。
 フェリチータを抱えたまま器用にドアを開け、ジョーリィは部屋に入った。
 室内の明かりは、カーテンが閉められていない窓から射し込む月の光だけ。
 月明を浴びるチェロの幻想さに目を奪われていると、不意にベッドの上に落とされた。
 落とされた、と言っても乱暴にではなく、慎重に横たえられる。
 ドキドキしながら目を向けると、彼はトレードマークであるサングラスを枕許に放り投げていた。
 露になったアメジストに射貫かれる。
 呼吸を忘れてしまうくらいに見入れば、端整な顔が近付き、唇を落とされた。

 「ふッ……んぅ」

 最初は穏やかなキスだったが、徐々に激情的なものへと入れ替わる。
 舌が侵入し、中まで貪られた。
 粘膜の絡まり合う温度が気持ち良くて、フェリチータの身体は力が抜けてしまう。

 「フェル」

 熱っぽく名前を呼ばれ、閉じていたペリドットの瞳に長身を映した。

 「……私も同じだ。
  君が離れて行ってしまうのではないかと、いつも不安だったよ」

 儚げで危うい、初めて目にするジョーリィの表情。
 島民に怖れられる錬金術師からは程遠いが、今の姿も彼の一面である。
 親に置いていかれた子どものような、心細そうな顔つきが見られるのは、フェリチータだけだ。

  「傷付けないよう大切にしていたつもりだったのだが、泣かせてしまうとはね。
  ……どうやら、私の慎ましい行動は逆効果だったらしい」

 寂しそうにしたかと思えば、にやり、と意地悪そうに笑った。
 くるくると猫の目の如く豹変する雰囲気に、振り回されるのも悪くないと思ってしまう。
 そんなフェリチータの心境を悟ったように、ジョーリィの纏う空気が真剣味を帯びたものへと変化した。

 「途中で止められないが……いいな?」

 「……うん」

 許可を求める口振りは、ジョーリィの狡さだ。
 それでも、フェリチータは全ての意図を理解した上で、覚悟を決めて頷く。
 好きな人を愛し、愛される事に一片も躊躇いはなかった。
 緊張で固まってしまった彼女に、柔らかい口付けが降らされる。
 口腔に忍び込まれた舌に、歯の裏や唇の裏など、自分でもそうそう触らない部分をされるがままに弄られた。

 「んん……っ」

 入れられるばかりではなく、巧みに誘い出されたフェリチータの舌はジョーリィの口内へと引き込まれる。
 恐る恐る、チロチロと動かしてみた。
 慣れない仕種にドギマギすれば、紫紺の双眼が間近で笑む。
 愛しさで、頭がおかしくなりそうだった。







 フェリチータの意識が完全にキスへ向けられている間に、ジョーリィは寝間着を脱がせてしまう。
 下着の上から胸に手を置けば、怯えたようにビクっと身を竦ませる。

 「ぁ……!」

 やわやわと全体を揉み解せば、ジョーリィの身体を押し退けようと抵抗を見せた。
 しかし快感の方が優るのか、すぐに腕の力が弱まる。
 その隙を逃さず、先端を指先でツン、と弾いた。
 途端、フェリチータの身体が大きく仰け反る。

 「ひゃうぅッ」

 「クッ……この程度でそこまで感じていたら、もたないぞ?」

 愉快そうに口の端を吊り上げ、ジョーリィもスーツや革手袋を脱ぎ捨てた。
 態と音を立ててキスをして、左の鎖骨に舌を這わせれば、下着の肩紐に当たる。
 その紐を腕へずらし、今度は素肌に吸い付いた。
 少しだけ自分の唾液が付着し、それを舐め上げる。
 フェリチータは思わず、ジョーリィの後頭部に手を回した。

 「ぃ……はァ」

 吐息混じりの小さな声が溢れる。
 声を上げないよう、必死に我慢しているのだが、どうしても出てしまうのだ。
 もっと聞きたいという欲望のまま、ジョーリィは執拗に舐め回した。
 右の首筋をなぞれば、フェリチータは反射的に左へ顔を背けてしまう。
 舌から逃れようと身体を動かすが、大きな右手が上気した頬に添えられ、固定された。

 「……俺から逃げられるとでも?」

 2人きりの時しか使わない一人称を囁く、深く低い声音がひどく艶かしい。
 背中に回された左手は、手際よく金具を外していく。
 フェリチータは緩んだ下着の上から両手で胸を隠すが、お構いなしに剥ぎ取られた。
 ジョーリィが烈々たるキスをすれば、丸みのある柔らかい膨らみが胸板に当たる。
 もっと彼女を感じたくて、両腕を【運命の輪】のスティグマータまで回し、折れそうな身体を自分に押し付けた。
 苦しそうな呻き声がフェリチータから漏れるが、ジョーリィは尚も舌を絡み付かせる。
 互いの唾液で口内を濡らし合い、キスが水音を立て始めた。
 耳にその音が伝わり、フェリチータも身体の芯が熱を持つのを感じる。
 広い背中に腕を回し、抱きしめ返した。

 「……大好きっ……」

 「……ああ」

 ジョーリィが、ゆっくりと唇を下に移動させる。
 【恋人たち】のスティグマータを過ぎ、谷間を通って右胸の飾りを舌先で突ついた。
 同時に右手だけを背中から逆の胸に移し、頂を優しく嬲る。
 フェリチータは思わず、黒髪の後頭部に両手をやり、強く握ってしまう。
 無意識の動作で、ジョーリィの頭はより乳房に押し付けられた。
 右胸を口一杯に含み、思い切り吸い上げる。
 右手は、人差し指と中指で左胸の隆起した先端を挟みながら、強く揉みしだいた。
 背中に回していた左手も戻し、右胸を掴む。
 右胸を左手で揉みながら、先端を唇で食み、舌先で転がす。
 左胸の頂も、人差し指と中指で摘み、擦り合わせるように捏ね回した。
 ジョーリィの手指に、唇に、舌に弄ばれ、硬く尖っていく小さな桃色の突起。

 「や……っ、だめェ!」

 「素直じゃないな」

 拒絶の言葉も、ジョーリィには自分を求めるようにしか聞こえない。
 反り返った拍子に晒された、顎の細いラインから首筋、鎖骨を見て、余計挑発される。
 右胸から唇を離し、今度は左胸を愛撫した。
 頂点を軽く噛むと、フェリチータは嬌声を上げ、ジョーリィの背中に爪を立てる。
 その痛みすら快楽に感じるくらい、彼の理性は遠く彼方に飛んでいた。

 「ごめ、んぁぁッ」

 然程強くもなかったので傷こそ残らなかったが、爪を立ててしまい謝るフェリチータ。
 しかしジョーリィの責めが止まらないので、謝罪に喘ぎが混じった。
 ようやく胸への愛撫が終わったかと思えば、一息吐く間もなく、今度は臍に舌を入れられる。
 くすぐったくて、フェリチータが身をくねらせると、ショーツが捩れた。
 ジョーリィは目敏く気付き、フェリチータが静止する暇もなく、奪い取られてベッドの下に落とされる。

 「やだぁぁ……」

 恥ずかしくて、出来るだけ見られないように、太腿を合わせて軽く膝を立てるが、ジョーリィが許す筈もない。
 白く眩しい腿の外側を撫でつつ、膝に手を乗せて押し開き、自分の身体をその間に滑り込ませた。
 覆い被さり、また口付けを落とす。
 その状態で腰だけ浮かせ、キスをしながらも、手を膝裏へ回して細い両脚を持ち上げた。
 太腿に唇で触れて舌を這わせ、徐々に下へ移し、また上へ戻ってくる。
 何回か繰り返した後、舌を納めて吸い付き、赤い痕をいくつも残した。
 左手を脚から離し、中指と薬指を舐めて、唾液で第1関節までたっぷり濡らす。
 唇は太腿に戻して、2本の指をそっと秘部に当てた。

 「ま、待って……っ」

 不安げな制止を無視して、擦るように指を上下させる。
 フェリチータは吐息を漏らしながら、愛撫に感じてシーツを握りしめた。
 ジョーリィは右手でしっかりと彼女の太腿を抱え、さっきとは別の場所に、また唇の痕を付ける。
 秘部を擦っている指が乾いてきたので、再び唾液で濡らし、先程よりも強く擦り付けた。

 「っ……ァ」

 目を閉じ、フェリチータが右に左に頭を振れば、ベッドの上で踊る長い髪。
 ジョーリィは太腿から唇を離し、両手を脚の付け根に持っていく。
 親指を秘部に当てて拡げ、舌を滑り込ませた。
 反射的に閉じられそうになる腿を、力づくで食い止める。
 唾液だけで湿っていた内部が、体内から出てくる愛液で濡れ始め、水音が大きくなってきた。
 気持ち良いのか、フェリチータが喘いで身体を捻らせる。
 息を止めて我慢したかと思えば、舌の動きを敏感に感じ取り、嬌声を響かせた。
 舌先を秘部の奥へと突き刺されると、痛みのような刺激で背中を丸めてしまう。
 中指を付け根まで口に含んだジョーリィは、しっかりと唾液を塗り付ける。

 「……力を抜くんだ」

 フェリチータに優しく声をかけ、濡らした指を秘部の中へと埋めていった。
 激痛にも似た衝撃が身体を走り、フェリチータが思わず叫ぶ。
 ジョーリィの指はまだ、第二関節の途中までしか入っていないのだが、力を抜けと言われても痛みはどうしようもない。
 身体を強張らせ、呼吸を荒くする少女を見て、指を抜く。
 癒すように舌で愛撫すると、フェリチータが切れ切れに喋った。

 「平気、だからっ……続け……て」

 「……」

 その言葉にジョーリィも覚悟を決め、再び中指を秘部の奥へ奥へと押し込む。
 出来るだけ痛みが少なくて済むように、周りに舌を這わせ、じわじわと進めた。
 フェリチータが苦痛を堪え、何とか指を蜜壷の中に飲み込んだ。
 早く浅い息に合わせて、豊満な胸が上下に揺れている。
 始めはそろそろと、徐々に速度を上げて動かす中指には、ほんの少し血が付いていた。
 秘部の突起を舐めながら、フェリチータの身体から力が抜けた頃を見計らう。

 「……増やすぞ」

 1回指を抜き、中指と薬指を唾液で濡らし、再び秘部へ差し込んだ。

 「ぅ……っ! ぃ……たっ……!!」

 耐えがたい激痛に悲鳴が上がる。
 1本でさえようやく飲み込んだものを、2本も入れられては、やはり苦しい。
 顔色を伺いながらも、ジョーリィは指をゆっくりと奥へ分け入らせた。
 今の内に拡げておかないと、後にもっとつらくなるのは明白だから。
 どうにかして2本の指を、根元まで到達させた。
 だが、ひたすら痛みを堪える恋人を見て、迷いが生じる。

 ――こんなに苦しめてまで、続ける必要があるのか?

 勿論、本心では行為を止めたくない。
 しかし、負担を掛けるような事もしたくなかった。
 愛しすぎる故に壊してしまいそうで、怖くなったのも事実だ。
 全ての動きを止め、耳許で囁く。

 「無理しなくていい。
  ここで止めて……」

 「やっ……やめ……ない、でェ……」  言い終わる前に、蕩けた声が遮った。
 あからさまな強がりに、ジョーリィは眉を寄せる。

 「もっと苦しくなるが……いいのか?」

 「ジョー……リィなら……いい、よ」

 朱を注ぐ顔を逸らしたまま、フェリチータは懇願した。
 それ以上何も言わず、ジョーリィは秘部への愛撫を再開する。
 2本の指を根元まで差し込んでは、第一関節まで引き戻した。
 時々、手の平を返すように中で指を反転させながら、何度も同じ動きを繰り返す。
 初めの痛みに比べれば大分慣れたのか、フェリチータの呼吸も落ち着いてきた。
 段々と悦楽に溺れ、甘い声が漏れてくる。
 指を出し入れしながら、フェリチータの左足の付け根を沿うように舌を這わせ、腰骨に吸い付き唇の痕を付けた。
 速度を上げて思い切り引き抜き、強引に押し込む。

 「はぁ、はぁッ……っ」

 フェリチータの呼吸が、再び乱れ始めた。
 しかし、痛みもあるのだろうが、愉楽も確かに感じているようだ。
 中は愛液ですっかり満たされており、滑りやすくなっている。
 指を抜き、秘部に唇を押し当て蜜を啜った。
 血が混じっていたが、気にも留めず飲み込む。
 不快な筈の鉄の味も、愛しい恋人の処女血であれば興奮材料にしかならない。
 左手でフェリチータの脚を抑え、右手は自身に添えて秘部に宛てがった。
 先端からは既に透明な液が糸を引いて、てらてらと光っている。
 もう、我慢の限界だ。

 「いいか……?」

 最終確認の問いかけに、フェリチータは静かに首を縦に振った。
 許可を得たジョーリィは、彼女の中に熱い自身を押し込み始める。

 「きゃ……っあァ……!」

 いざ入れんとすると、指とは違い、異常なまでの狭さに絶句した。
 入口も中も濡れてはいるのだが、押し返すように圧迫してくるのだ。
 上半身を倒しながら、昂りをしっかりと根元まで食い込ませる。
 途中、ミシッと何かを弾いた感触で、破瓜の瞬間を実感した。

 「いっ、た……ぁッ」

 「ぅ……フェル……っ」

 フェリチータは下腹部に異物が入ってきたのを感じ、痛みが全身を駆け巡る。
 真っ赤な顔を見られたくないとばかりに背け、呻吟した。
 刺激という程生易しいものではなく、激痛以外の何物でもない。
 息が詰まるように苦しかったが、包み込んだ剛直が体内で膨張するのを感じると、満たされていくような気がした。
 挿入だけで互いにかなりの体力を消耗し、呼吸が荒い。

 「……痛いか?」

 「痛い……けど、凄く安心する……」

 今まで見せた事のない、蕾のような色香ある表情に、ジョーリィの心臓が跳ね上がった。
 暴発しそうな自分自身を何とかせき止める。
 フェリチータの奥へ繋がる通路は余りにも狭く、襞がぴったりと張り付くのだ。
 しかも、呼吸に合わせて圧迫力は絶えず変化している為、揉まれるような感覚を味わい、今にも果てそうだった。

 「動くぞ……」

 腰を引くと、体内に収めたジョーリィを敏感に感じるのか、彼女は痛みを我慢するように顔を歪める。
 ゆっくりと奥へ戻し、勢い良く貫いた。
 律動の度に、フェリチータは全身が硬直してしまう。

 「……力を抜け……」

 直ぐにも達してしまいそうなのを懸命に堪え、ジョーリィは腰を動かしながら、膨らんだ双丘へ、手と口で愛撫を繰り返す。
 力を抜こうと努力しているにも関わらず、小柄な身体は責めに反応してしまう。
 その都度、フェリチータが中のモノを締め上げ、ジョーリィも声を漏らしそうになった。
 息遣いと、肌と肌のぶつかり合う音が、2人の情欲を煽り立てる。
 始めはくぐもった声を上げていた彼女も、官能の悦びに身を任せ、間違いなく甘美な声に変わっていた。

 「は、ぁぁ……んっァ」

 ジョーリィは指と唇と舌を駆使し、フェリチータの上半身を徹底的に責める。
 むろん、下半身は休む事なく揺れ続けた状態だ。
 指、唇、舌、どれで愛撫しても過剰反応する場所――左胸の最上を探し当てた。
 そこを噛んで、背中に爪を立てられたのを思い出す。
 左の親指に唾液を塗り付け、秘部の小さい花芽を擦ると、ここでも過敏な反応を示した。
 右手で左の乳房を覆うように掴み、人差し指と中指で突起を強く苛む。
 腰を思い切り叩き付け、丸みが見えるくらいまで凶暴な塊を引き抜き、最奥を抉った。
 敏感な3ヵ所を同時に責められ、フェリチータは気が狂いそうになる。

 「ぁあ……っ! やっ……!」

 駄目、と言わんばかりにジョーリィの腕を押さえた。
 それでも攻撃は一向に緩まず、諦めてシーツの生地を手繰り寄せて握る。
 どうしたら良いのか分からず、ただ悶える事しか出来なかった。

 部屋に響く、啼き声と淫靡な水音。
 今まで見たことのない、乱れた嬌容。
 舌先に残る、唾液と愛液の味。
 充満した甘い蜜の匂い。
 秘めた場所での、熱伝導。

 五感全てが色欲に支配され、一気に高みへと昇りつめる。

 「はぅ……ッ……ひゃぁあん!!」

 「く、ぅ……フェル……っ」

 先にフェリチータが絶頂へ駆け上がり、硬直した身体は魚のように跳ねた。
 大きく1度跳ね、2度3度小さく跳ね、後は小刻みに痙攣している。
 ジョーリィも同時に達し、自身から迸る熱を、残さず中へと送り込む。

 「フェル……?」

 ようやく白濁の放出が止まり、ぐったりとしているフェリチータを覗き込んだ。
 どうやら疲れ果ててしまったらしく、意識を手放している。
 喘鳴ではなく、安定した息遣いに安堵して身体を引き抜いた。
 傍らに横たわり、汗で張り付いた赤い前髪を払ってやる。
 図らずとも目にした幸せそうな微笑みに、ジョーリィの心も満ち足りていった。

 「言葉にならないな……」

 望みの為、全てを犠牲にして生きてきた自分に、幸せを感じられる日が来るなんて。
 すやすやと眠る少女の額に唇を寄せ、瞼を閉じる。

 ――目を覚ました時が楽しみだな。

 きっと、実に揶揄いがいのある、羞恥心で赤く染めた顔をするのだろう。
 けれども、あくまで予想でしかない。
 全てにおいて確信を持てるようになるには、まだ時間が足りないのは分かっている。
 ひとつ残らず彼女の事を知りたい。
 それは錬金術師としての知的欲求ではなく、恋人としての独占欲から生まれる物。
 己の狭量に呆れながらも、願う心は抑えられない。
 苦笑じみた音を喉の奥で鳴らし、ジョーリィは穏やかに寝入った。





 どんな表情を見せてくれるのだろう。



 どんな声を聞かせてくれるのだろう。



 いつだって、本当に欲しいのは唯、君だけ。






fine.




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