秘めた病にご用心

 



 「ジョーリィが風邪をひいたみたい」

 半日振りに館へ帰ったフェリチータは、玄関ロビーで迎えてくれたスミレの言葉が俄には信じられず目を見開く。
 今日はルカと共に領主との会合後、ドンナ就任の顔見世も兼ねたパーティーに出席していた。
 朝、2人が館を出る時のジョーリィは、自分の恋人が12時間以上も別の男といる事に不満げな様子だった。
 しかし仕事と言われれば引き下がるしかない。
 ルカに見せ付けるようにしてフェリチータへキスを送り、悠々と錬金部屋へ戻って行った。
 その際の姿に体調不良を思わせる所など全く無くて。
 相変わらずの幼稚さに呆れながら、泣き崩れる従者を引っ張って外出したのだった。

 「お昼過ぎに見かけたら咳をしていたのよ。
  『何でもない』とは言っていたけれど、本当に具合が悪そうだったわ」

 広げた掌で口許を見えないようにしてはいるが、驚きを隠しきれていないスミレ。
 ルカも大きく頷いて賛同する。

 「珍しいですね、ジョーリィが風邪をひくなんて。
  弱った姿を見せるような人では……ってお嬢様!?」

 考える間もなくジョーリィの寝室に向かって駆け出すフェリチータには、ルカの呼び止める声も届かない。
 彼女の中を占めているのは、かなりの年上な筈なのに子どもっぽい、非常識な錬金術師。
 頭も心も、彼の事でいっぱいだ。
 それはフェリチータのアルカナ能力である『恋人たち』を所有していなくても、誰もが分かる程で。
 幼い頃から仕えている主の幸せを心から願うルカも例外ではない。
 ファミリーのもう1人の錬金術師は、追いかけて引き留めたい思いを何とか抑え込む。
 ぎりぎりの理性で足を止めるルカと館の廊下を全速力する愛娘、2人の後ろ姿を眺めてスミレは微笑を浮かべた。









 ……どうしよう。

 ジョーリィの私室の前でフェリチータは思案する。
 思わず走って来てしまったが、もし就寝中ならば邪魔しない方が良いだろう。
 心配ではあるが病人を起こしてしまうのも気が引けた。
 明日お見舞いに来よう、と踵を返そうとした時。

 「入らないのか?」

 ドアの向こうから深く低い声をかけられる。
 部屋の主が眠っていない事と自分の訪問が知られた事に少々驚きながらも、フェリチータは扉を押した。

 「具合はどう?」

 薄暗い室内の闇に目が慣れず、手探りで施錠する。
 ぼんやりとしたシルエットを頼りにベッドへ近付けば、ジョーリィはベッドヘッドに上体を預けて本を読んでいた。
 カーテンの隙間から覗く微かな月明かりで読書をする相談役はひどく様になっている。

 「寝てなくて大丈夫?」

 「解熱剤を服用済みだ」

 だから問題ない、という事なのだろう。
 フェリチータとしてはゆっくり休んで欲しいところなのだが、忠告を素直に受け入れる人物ではない。
 軽く溜息をつき、羽織っていたストールを外して傍の椅子に置いた。
 剥き出しの肩が冷気に触れ、軽く身を竦ませる。
 今のフェリチータが纏っているのは、いつもの黒いスーツではなくベアトップタイプのドレスだ。
 胸のフロントにはデコルテのスティグマータを見せる小窓とストーンが散りばめており、そこを中心に左右、下へとギャザーが波打つ。
 パットも付いた伸縮性の高い衣装は踵の高いサンダルと相俟って、新米ドンナを実年齢よりも大人っぽく色気のある女性に見せていた。

 「フェル」

 名前を呼ばれたと思ったら、ジョーリィの腕がフェリチータの方へ伸ばされる。
 両脇に手を差し込まれ、抱き上げられた。

 「きゃ……っ」

 カタンッと2回、履いていたハイヒールが床を叩く。
 研究室に籠りきりの男は存外に力があり、ジョーリィは危なげなく自分の膝の上に小さな恋人を乗せた。
 何となく気恥ずかしくて俯くフェリチータの頤が長い指に捉えられる。
 軽く力が入り、視線が合わさるように顔を動かされた。
 サングラスが外された紫の双眸は、まるでフェリチータを観察するかのように眇められている。

 「その格好で他の男と会ったのか?」

 「え?」

 突然の質問にフェリチータはきょとんとした。
 領主主催の会合とパーティーに出席して来た事は、勿論ジョーリィも知っている。
 領主も、パーチェの異母兄弟である領主の息子も、それに付き添いのルカも当然男性だ。
 それなのに、何故そんな事を尋ねるのかフェリチータには理解出来ない。
 訊き返そうと口を開いた瞬間。

 「ふぁ……っン」

 唇を塞がれ、息を継ぐ余裕も無く舌が入れられた。
 貪るような口付けにフェリチータの身体は温度を上げ、内部に火が付く。

 「こんな扇情的な姿を晒すとは……。
  どうやら再教育が必要らしい」

 皮肉めいた口振りだが、目は少しも笑っていなかった。
 気圧されたフェリチータは上体を仰け反らせようとするが、ジョーリィの両腕に身体をしっかり捕まえられていて身動きひとつ出来ない。

 「逃げるのか?」

 「まさか」

 挑戦的な視線にフェリチータは睨み返した。
 ジョーリィは喉の奥を震わせる。

 「だろうな。
  ……まぁ、逃がすつもりもないがね」

 再び合わせられた唇は、風がそよぐようにフェリチータの首筋を伝い降りた。
 露出した肩に舌を這わされると背筋が大きく戦慄く。

 「ァ……」

 口を衝いて出た甘い吐息にジョーリィはニヤリと笑い、ドレスの胸許に手を掛けて引き降ろす。
 フェリチータが抵抗する隙も無く、いとも簡単に白い双丘が姿を現した。
 陶器のように滑らかで綺麗な肌を見て、彼は口角を上げる。

 「誰にも触れさせていないな」

 「当たり前でしょ……ひゃッ」

 いきなり左の乳房を口に含まれ、フェリチータの身体は跳ねた。
 胸の先端を舌で転がされ、甘噛みされ、舐め上げられる。
 反対の胸も柔らかく揉みしだかれ、快楽がじわじわと全身を包んだ。
 声を押し殺そうと、フェリチータは咄嗟に口を硬く結ぶ。

 「クッ……さて、いつまで我慢出来るかな?」

 ジョーリィは淫靡な手付きで華奢な身体を隈なく愛撫した。
 艶やかな唇に何度もキスを落とし、耳にしゃぶり付く。
 スカートの中へ手を忍ばせて太腿を撫で回せば、刺激に我慢出来ずフェリチータは小さく叫んだ。

 「堪え性の無いお嬢様だ」

 ジョーリィは嬉しそうな、しかし邪悪な笑みを浮かべてショーツの上から秘部を擦り上げる。
 既に湿り気を帯びた下着は一層情欲を呼び起こし、行動を大胆にさせた。
 フェリチータが身を捩じらせるのもお構いなしにショーツの紐を解き、中指をゆっくりと体内に埋める。

 「ゃ……あぁ……!」

 内部を抉るように掻き回してピストン輸送を繰り返すと、か細い嬌声が部屋に響いた。
 ジョーリィの指の付け根まで愛液がトロトロと流れる。

 「こんなに溢れさせるとは……。
  随分と淫らなドンナだ」

 「だ、だって……ッ」

 「調教の成果だがな」

 長い髪と同じくらい真っ赤な顔を一瞥し、ジョーリィは薄く笑った。
 挿入する指を増やし、同時に最も敏感な性感帯をグニッと押し潰す。
 直接的な快楽によりフェリチータは一瞬で高みに登りつめた。

 「悦い顔だよ、フェル」

 肩で息をする彼女の背を摩りながらも、中に沈められた指の動きは止まらない。
 愛液を掬い出すように抜かれた2本の指の間は、光る銀糸で繋がれていた。
 それを見せ付けるように、ジョーリィはわざと卑猥な水音を立てながら舐め取る。

 「フェルは看病に来たのではないのか?
  なのに君だけ気持ち良くなられては困るね」

 対価を貰おうか、と口許を歪ませる恋人にフェリチータは視線を向けた。

 「……何が欲しいの?」

 未だ快感の波に漂ったままの意識を無理矢理引き戻し、尋ねる。
 絶対にろくな事ではないのは今までの付き合いから簡単に予想出来た。
 だが一応は病人だ。
 体調を崩した相手の希望は出来るだけ叶えてあげたい。
 それが大切な人であれば尚の事。
 眦を下げたフェリチータの顔を、ジョーリィがそっと撫でた。

 「そうだな……。
  身体の向きを反対にしていただけるかな?」

 「身体の向き?」

 全く想定していなかった要望に、フェリチータは首を傾げる。
 しかしジョーリィはそれ以上何も言わず、起こしていた上体を横たえて仰向けになった。
 嫌な予感を抱きつつも体勢を変えようと、膝の上から退こうとしたが。

 「降りる必要は無い」

 腕を軽く押さえられ、動きを阻まれる。
 不信感を募らせるフェリチータだが、反論の言葉が見つからず素直に従った。

 「これでいい?」

 ジョーリィの長い脚の上で身体を反転させ、首だけ振り返って肩越しに問う。
 満足そうな恋人の表情を確認し、ほっとしたのも束の間。

 「こちらへ来い」

 腰を掴まれ、引っ張られた。
 逆らう事も出来ず、そのままずるずると身体を移動させる。
 腹を過ぎ、胸まで来ても引く力は弱まらない。
 このままでは顔の上に座る事になってしまう、と懸念したフェリチータは腰に添えられた手に自分のを重ねた。

 「待って、このままじゃ……」

 「構わない」

 構わないって!

 慌てるフェリチータを余所に、もっと引っ張るジョーリィ。
 何とか抵抗を試みるが、大きな手には益々力が込められていく。
 あと少しで首に到達する、と狼狽えていると、グイッと腰を持ち上げられた。
 急な動きにバランスを崩し、フェリチータは前のめりになる。
 咄嗟に両腕を突き出し、真下にあるジョーリィの身体との激突は避けた。
 しかし恋人とはいえ男性の下半身を見下ろす格好となり、かなり恥ずかしい。
 更に自分の腰は浮いた状態であり、顔の上に座る事は回避出来たが跨ぐ羽目に陥ってしまった。

 「ジョーリィ……きゃッ」

 非難の声を上げようとしたが、スカートを捲られた感覚に悲鳴を発する。
 先程の行為で下着は脱がされており、秘部が外気に当たってぞくりと全身が粟立った。
 だが、それよりも。

 「み、見ないでっ!」

 ジョーリィの顔を跨いでいるという事は、秘部を眼前に晒している状況になる。
 自覚した途端、どうしようもない羞恥心で顔が燃えるように熱くなった。
 再び制止を求めるが、ジョーリィは全く聞き入れようとしない。
 それどころか心から楽しそうな声で嗤っていた。

 「滅多にない見世物だな」

 「駄目だって……ャあ!!」

 突然襲った、身体に雷が走ったような感覚で呼吸が止まる。
 何が起こったのか理解するまでに数秒を要す程、フェリチータにとって衝撃的な行為だった。

 「い、やぁ……ッ」

 ジョーリィが両方の親指で秘部を広げ、襞同士の隙間に舌を挿し込んだのだ。
 唾液と自分の愛液が混じり合う音を聞きながら、フェリチータは快感に身悶えた。

 「クックック……」

 「あぁ……ンぅ」

 息を吹きかけられ、丁寧に舐め上げられる。
 まるで玩具の如く簡単に翻弄されている自分が情けなく悔しい。
 フェリチータは無意識の内に、眼下の熱い膨らみに触れた。
 ジョーリィの腰がぴくりと反応する。

 「ほう……お嬢様自ら淫行に及ぶとは。
  さて、どうしてくれるのかな?」

 明らかにからかいを帯びた口調にムッとするが、仕返しの手は緩めない。
 ベッドに肘をついて体重を支え、ボトムスと下着の前を開けてまさぐる。
 腹に届く程威勢の良い塊を両手で包み込み、角度を少し起こした。
 そのまま躊躇わず口に含む。
 少しでも逡巡すれば、含羞で動けなくなりそうだったから。

 「……っ」

 ジョーリィの身体が強ばり、息を詰めたのが分かった。
 フェリチータは口の中で屹立するモノに舌を丹念に這わせる。
 体内を彷彿とさせるその感触に、ジョーリィ自身から露が滲み始めた。

 「はぁっう……れ、ろぉ……」

 「……く……」

 慣れない所為に戸惑いながらも奉仕を続けるフェリチータ。
 ジョーリィは彼女が齎す悦楽に一瞬動きを止めたが、すぐに反撃に出た。
 粘膜内で舌を泳がせ、敏感な花芽に指先を叩き付ける。
 フェリチータが大きく跳ね上がった。

 「ひゃぁッッ」

 「悪くない反応だ。
  ……もっと欲しいか?」

 甘い蜜を滴らせる場所に、くるくると円を描く刺激が送られる。
 口を離したら答えを求められそうで、フェリチータは懸命に口内のジョーリィに舌を巻き付かせた。

 「淫乱なお嬢様だ」

 くつくつと喉の奥を鳴らしながら、ジョーリィは舌先を尖らせ愛液の溢れる蜜壷へ捩じ込む。
 同時に小さな粒を指で責め立てた。

 「んッ……ぅあ」

 少女の甘美な吐息が部屋を満たす。
 つい口を遠ざけてしまったが再度先端を咥え直し、フェリチータはゆっくりと手を上下に動かした。
 遠慮がちな手指の動きはもどかしいが、それが余計に官能の悦びを生む。

 「は……っ、フェル……」

 荒い息を吐き出すジョーリィのモノが一層膨張した。
 フェリチータは歯を立てないよう慎重に唇で扱き、舌で撫でる。
 互いの激しさは増し、相手を高みに押し上げていき――。

 「ジョーリィ……っやぁぁア!」

 「……ッ」

 同時に頂上へと駆け上がり、フェリチータの身体は跳躍した。
 ジョーリィも我慢出来ずに熱を解放させる。
 フェリチータは迸った白濁に喉奥を突かれるが、眉間に皺を寄せただけで離そうとしなかった。
 それどころか残滓まで吸い出すように啜り始める。

 「っ……無理をするな」

 「無理なんか、んっ……してない。
  したいからしてるだけ……ッ」

 「……!」

 フェリチータの言葉に、ジョーリィは頭が熱くなるのを感じた。
 またもや火照り出した身体を自覚し、恋人の名前をそっと声に出す。

 「おいで」

 呼びかければ、欲情に囚われたペリドットの瞳が振り返った。
 今度は向き合って膝に乗せる。
 不安そうな色を滲ませるフェリチータの髪を梳き、囁いた。

 「私は体調が優れなくてね。
  ……君が動いてくれないか?」

 「……十分元気でしょ」

 大きく潤んだ目に睨まれるが、ジョーリィは何処吹く風だ。
 愉快げに口の端を上げ、細く折れそうな腰を掴んだ。
 位置を調整すると、相互の熱が僅かに触れ合う。
 それだけでフェリチータの背筋に痙攣が走った。

 「あ……!」

 開いた場所からはたっぷりと蜜が溢れ出し、ジョーリィ自身に伝い落ちる。
 そそり立つ雄の象徴は愛液に濡れ、光っていた。

 「俺のフェルなら出来るだろう?」

 「……ず、ずるいっ」

 甘く蕩けるような声で求められれば逆らえない。
 フェリチータの心情を全て知った上での言動に、毎度振り回されるばかりだ。

 「フェル」

 彼しか使わない愛称で柔らかく微笑まれ、フェリチータは覚悟を決めた。
 昂りの先端を入口に宛てがい、慎重に腰を落とす。

 「ャ、あゥ……ッ」

 驚く程濡れた体内は何の抵抗もなくジョーリィを受け入れた。
 襞をかき分け、どんどん奥へと進んでいく。

 「ふぁっ、あ……ジョー……リィ……!」

 「……ん……」

 矛先で最奥まで貫かれ、灼熱が全身の感覚を支配した。
 挿入の衝撃から立ち直れないフェリチータを抱え直し、ジョーリィは下から大きく突き上げる。

 「あッんっっ」

 ずん、と深く抉られたフェリチータは喉を反らして喘いだ。
 緩急を付けて揺さぶられ、目の前がチカチカするような錯覚に陥る。
 繋がり合った場所から聞こえる淫猥な水音が2人の興奮を助長した。

 「ンぁぁ……っや、ふ……ぅ」

 「……は……ッ」

 何度も奥深くに叩き付けられ、突き刺さされる。
 ざわめく体内の感触と痛いくらいの締め付けに、ジョーリィの方も限界が近付いた。
 律動を速め、一気に快楽の頂点を目指して動く。

 「ひゃうぁぁ!!」

 「くっ……ぅ」

 フェリチータの内部が痙攣を起こし、中のモノに容赦なく圧迫を与えた。
 放出された欲望が収縮を繰り返す体内を満たしていく。
 絶頂の快感に力が抜けたフェリチータは、ジョーリィに寄りかかるようにして倒れた。
 そんな彼女を優しく受け止め、頭を撫でる。

 「ジョー……リィ……」

 疲労で微睡む未来の花嫁に、ジョーリィは啄むようなキスを落とした。
 心地よい眠気に暫し陶酔していたフェリチータだったが、ある事に気付き顔を上げる。

 「具合悪くて動けないんじゃなかったの?」

 「何の事だ?」

 怪訝そうに尋ねる声の主を鋭く見つめた。
 しかし、咎める言葉を発する為に開いた口は直前で噤まれる。
 ジョーリィが不機嫌な視線で問うと、フェリチータは渋々と話した。

 「さっき……私がう、動けって……」

 恥ずかしくて目を合わせられない。
 朱に染まった顔を枕に埋めるフェリチータを見て、意地の悪い男は悪魔の笑みを浮かべる。

 「体調が優れないとは言ったが、動けないとは言っていないぞ?」

 ベッドサイドのテーブルに手を伸ばし、葉巻を取った。
 器用に片手で火を付ければ、錬金術の青い炎がジョーリィの楽しげな表情を妖しく照らす。

 「だ、騙したの!?」

 「人聞きの悪い。
  勝手に勘違いしたのは君の方だろう?」

 ニヤリと笑う顔がとてつもなく腹立たしい。
 フェリチータは渾身の力を込めてジョーリィの胸を殴った。

 「ゴホッ……!」

 受け止められる事のなかった拳は綺麗にヒット。
 普段であれば軽々と止める筈なのに、ジョーリィは大きく咽せている。
 どうやら具合が悪いのは事実らしい。
 フェリチータは慌てて婚約者の顔を覗き込んだ。

 「ごめんっ、ジョーリィ大丈夫……きゃあ!」

 起こしかけた身体を押され、中途半端だった体勢は簡単に倒れ込む。
 天井が見えたのは刹那の時で、すぐにジョーリィが覆い被さってきた。
 有無を言わさず唇を重ねられる。

 「……ハァ……んっ」

 フェリチータの濡れた下唇が引っ張られ、吐息が漏れた。
 薄く開いた隙間から、当然のように舌を差し込まれる。
 ジョーリィに頭を抱かれ、激しく貪られる口内。
 それでいて甘く絡んでくる舌に、フェリチータは酔いしれた。

 「あん……ン、ふぅ」

 「ん、ぁ……フェル……」

 名残惜しげに糸が伝い、切れる。
 目に浮かべた涙を拭う事も出来なくて、滲んだ視界のままジョーリィを見上げた。
 アメジストの瞳が間近で笑む。

 「どうやら……俺は君に狂ってしまったようだ。
  病的な程に、な」



fine.


 



 

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