グルコースより甘いもの




「食べ物ちょうだい」

フェリチータがそう言って、私の研究室に入って来たのは朝の10時。
朝食を摂り実験の続きに取り掛かろうとした時、ドアがノックされた。
錬金部屋に近づく人物など限られている。
何か面倒事を言い付けられるのではないかとげんなりしたが、返事をするよりも早く扉が開かれた。
赤く長い頭髪を左右の高い位置でまとめ、黒いスーツに細い身体を包んでいる。
いつもと変わらない格好だ。

しかしフェリチータの口から発せられた言葉は、仕事に関係があるとは到底思えない。
空腹な子どもの我侭か、もしくは胃袋脳を持つメガネ男の口癖か。
研究対象の1人である男の姿を思わず想像しそうになって、やめた。

「来る場所を間違えているようだな、お嬢様。
 空腹なら食堂か、もしくはルカにでも言えばいい」

「違う、お腹が空いてるんじゃない」

首を振り否定の態度を示すフェリチータを見て、訝しい気持ちになる。
この少女は幼少期に殆ど他人と関わっていないせいで、口舌が巧みではない。
詳細不足の言葉では理解出来ないので、私は詳しい説明を求めた。

「今日はサン・バレンティーノだからチョッコラートを作るの」

楽しそうに話すフェリチータに、ついつい見入ってしまう。
そんな私の様子に気付くこともなく、可愛い恋人は話を続けた。

「でも普通のじゃつまらないから、みんなから好きな食材を貰って作ろうかなって」

「なるほど」

ようやく納得がいく。
つまり、部屋に足を踏み入れた際の第一声はチョッコラートの材料を要求していたということか。
甘い物は元々好むし、彼女が作る物であれば尚更食べてみたい。
だが、先程の『みんな』という発言が気に障る。
私以外の男がフェリチータの手作りを口にするとは面白くない。
しかし優しい彼女を止めることも出来ない。
私は少し悩んだ末、ひとつの小瓶を差し出した。

「これを使うといい」

中で揺れるマゼンタの液体を警戒して見つめるフェリチータ。

「これ、身体に悪影響は無い?」

「疑われるとは心外だな。
 ……俺が君を危険な目に遭わせるとでも?」

普段は使わない一人称で笑いかけると、未来の花嫁は顔を赤くさせた。

「あ、ありがとう!」

逃げるように部屋を飛び出したフェリチータの姿がおかしく、笑いを押し殺しきれない。
けれども彼女のお手製を味わうであろう男たちの顔を思い出し、不快な心地に眉を寄せる。

「あの特製カクテル入りチョッコラートの犠牲になるのは誰かな……?」

不穏な台詞は紫煙と共に空中に溶けて、消えた。





「お茶が入りましたよ」

食堂にルカの声が響き渡った。
仲間たちの好みに合わせて淹れられた紅茶。
テーブルの中央には小粒のチョッコラートがたくさん並んでいる。

「お嬢が作ったのか、すげー!」

リベルタの歓声に、作り手は微笑んだ。

「気に入ってくれるといいな」

「バンビーナが作ったモンなら何だって気に入るに決まってんだろォ?」

「ありがとう、お嬢さん」

甘い物を好まないデビトとダンテにも礼を言われ、フェリチータは嬉しくなる。
一方、ジョーリィは渋い顔をした。

――これは誤算だったな。

一口大のチョッコラートは全て同じ色、同じ形状で、どれにジョーリィが提供したカクテルが含まれているか分からない。
まさかロシアンルーレット形式で出されるとは思わなかった相談役は、内心でため息をついた。

「どうかしたのか?」

不審そうなノヴァに尋ねられ、すぐに表情を元に戻す。

「いや、何でもない。
 それよりお前はどんな食材をお嬢様に提供したんだ?」

「言ったら面白くないじゃん!」

ノヴァが答えるよりも早く、パーチェが口を挟んだ。

「ノヴァもジョーリィも突っ立ってないで座りなよ。
 せっかくお嬢が作ってくれたんだから食べよう!」

ファミリー随一の大食らいに促され、全員が席に着く。

――カクテル入りに当たる確率は低いか。

頭の中で計算を済ませたジョーリィも渋々着席。

「いっただきまーす」

幹部長代理の掛け声で仲間たちは1粒ずつ手に取り、一斉に口の中へ放り込んだ。
噛み砕かれたチョッコラートの甘味が口いっぱいに広がり――

「しょっぺーー!!」
「すすす酸っぱい!」
「甘ったりィーー!!」
「んー、美味しい!」
「かっ、からいです!」
「何だこれは!」
「……苦い」

お菓子を食べた後とは思えないような感想も上がる。

「しょっぱいけど美味い!
 お嬢、何を入れたんだ?」

「多分、ノヴァがくれた岩塩かな」

リベルタの疑問に、製作過程を思い出しながらフェリチータが答えた。
岩塩の提供者、ノヴァの説明が続く。

「シチリア産のいい物が手に入ったんだ。
 リベルタ、お前は何を渡したんだ?」

「オレは唐辛子!  からいチョッコラートってのも面白いだろ?」

にっこり笑うリベルタを、ルカが恨めしそうな顔で見遣った。

「確かに面白い味がしますが、からい物が苦手な私にはちょっと……」

「ルカは何の食いモン?」

甘党従者の言葉を無視して、からい物好きが尋ねる。
リベルタの態度に呆れつつもルカは真面目に話した。

「私は砂糖漬けのアルビコッコ、それとノーチェを提供しました」

「最初から甘ぇモンを砂糖漬けにすんじゃねぇよ」

不満を上げたのはデビトだ。
どうやら甘い物嫌いの彼に、砂糖漬けのアルビコッコ入りが当たったらしい。

「ノーチェ入り、本当に美味しかったよ!
 おれのチーズが入ったチョッコラートちゃんはどれかなー?」

「これはお前のか、パーチェ!」

紅茶で口直しをしていたダンテがパーチェを睨んだ。

「あ、食べた?美味しかったー?」

「お嬢さんが作ってくれたおかげだな。
 独特な味だったが、美味かったぞ」

「ダンテが提供した食材は何ですか?」

ルカに問われ、口篭る幹部長。

「俺は……あー、スミレから貰ったジャッポネの保存食だ」

「まさかウメボシか?」

ジャッポネに詳しいノヴァが反応する。

「どうりで酸っぱい訳だ……」

酸味を苦手とする聖杯の幹部がウメボシ入りを食べたようだ。
大アルカナたちの感想を聞きながら、ジョーリィは思案する。

――先程の苦味はアルコールによるものだろう。
   ということは、デビトのか。

「私が食したのにはデビト提供の物が含まれていたみたいだな」

「ジジイが食うって知ってたんなら、ブランデーじゃなくて毒にしたのによォ」

デビトは心からがっかりしているようだった。

「残念だったな」

「ねぇ、ジョーリィはお嬢に何をあげたの?」

パーチェの質問に口角を上げる錬金術師。

「知りたいのか?」

「や、やっぱいいや」

その場の全員が不吉な予感を抱き、各々『ジョーリィが持ち寄った食材入りに当たりませんように』と真剣に祈った。
変わった味はするけれども、そこはフェリチータのお手製。
どのチョッコラートも美味しく、物の数分で大の男7人はひとつ残らず平らげた。





***





お茶の時間の後、ジョーリィは相談役執務室に戻り仕事をこなした。
恋人が作った甘味を堪能した満足感から、珍しくひたむきに執務を行う。
余りにも集中していた為、己の身体の異変に意識が向いたのは陽がすっかり暮れた頃だった。
暖房を入れていない室内は冷える筈なのに、全身が温かい。
血行が良くなり、血液が体内を駆け巡っているのが良く分かる。

――まさか、カクテルの効果か……?

最後に食べたチョッコラートの記憶を手繰り寄せた。
薄い砂糖の殻に閉じ込められていた液体。
甘さと仄かな酒の香りであまり気に留めなかったが、今思い返せばカカオの苦味とは違う苦さを舌先が感じ取っていた。
きっとあれは薬草の苦味だったのであろう。
フッと鼻で笑い、葉巻を咥え直した。

「自分で口にしてしまうとはな……」

フェリチータに渡したカクテルは気まぐれに作った媚薬だ。
余った材料で暇潰しに調合した物で、動物実験も行なっていないし解毒剤も作っていない。
強い成分は含まれていないはずだし、様々な薬に対しての耐性もある。
そう考えて高を括っていたのだが。

夕食後に日課である実験を行い、入浴も済ませてあとは寝るだけという状況。
しかし一向に睡魔は訪れない。
ポカポカと身体が温かく、逆上せた感じがして眠れない。
諦めて起き上がると、体内を巡回する血液が一点に集中し始めた。
徐々に充血していく己自身。
中心が熱く膨張して脈を打ち、その先端からは露が滲んで来た。
自嘲気味に笑い、理性という抑止力が保たれているのを確認する。
この湧き上がってくるモノをどう抑え付けようかと思索を巡らせた。
だがドアの向こう側にフェリチータの気配を感じ、脳が思考を停止する。

「ジョーリィ?」

控え目なノックと同時に聞こえる、愛しい声。
錬金部屋とは違い、寝室の扉を勝手に開けないのは従者による教育の賜物か。
今の心身状態で彼女の入室を許可するのはかなり危険だ。
分かってはいるのだが、再度自分の名を呼ぶか細い声に思わずドアを開けてしまう。
フェリチータは風呂上がりらしく、乾ききっていない髪からシャンプーのいい香りを漂わせていた。
ほんのり紅潮した頬に桜色の唇。
スーツではなく、可愛らしい寝間着姿に思わず目を細めた。

「ごめんなさい、起こしちゃった?」

「いや、寝付けなくて本でも読もうかと思っていたところだ。
 何か用かな、お嬢様?」

「用が無いと来ちゃいけないの?」

悲しそうな表情を見て、一瞬言葉に詰まる。
フェリチータはその隙を見逃さず、ジョーリィの脇を通って部屋に滑り込んだ。
本棚に詰まった錬金術の関連書を興味深げに眺めている。
無理矢理追い出す訳にもいかず、ジョーリィは深く息を吐いた。

「全く……こんな時間に、そんな無防備な格好で男の部屋に来るとは。
 何をされても文句は言えない、そう思わないか?」

特に今はな、と心の内で付け足す。
脅しと本気が綯い交ぜになった台詞にもフェリチータは退室しようとしなかった。
ベッドに腰掛け、退屈そうに爪先を見下ろしている。

「だって……眠れないんだもん」

ぽつりと呟かれた言葉は何処か寂しそうで。
ジョーリィは隣に座り、愛する彼女の頬を両手で包み込んだ。
素肌に感じる、フェリチータの体温と感触。
柔らかく唇を落とすと、嬉しそうに身を擦り寄せて来る恋人が堪らなく愛おしい。
ジョーリィの身体がピクリと反応を示す。
更にキスを強請るような仕草をするフェリチータを半ば強引に引き剥がした。

「ジョーリィ……?」

悲壮感を帯びた声音にすら欲情してしまう。
それでも残った理性で現状を冷静に分析する。
一度抱いてしまったら枷が外れ、手放せないだろう。
どんなに彼女が泣いて嫌がったとしても、欲望のまま乱暴に扱ってしまうことも起こり得る。

「どうしたの?」

様子がおかしいことに気付いたフェリチータが不安げにジョーリィを見上げた。
潤んだ瞳で見られ、艶やかな唇で呼ばれる。
ジョーリィはそれらから逃げるように身体を反らした。

「フェル……今日は部屋に戻るんだ」

「え……あ、もしかして具合悪いの?」

「そうではないが……」

言葉を濁すジョーリィを見つめるフェリチータ。
真っ直ぐ伸びて来る視線には、やはり隠し事は出来ず。
ジョーリィはカクテルのことをフェリチータに打ち明けた。





「……自業自得」

フェリチータは呆れ顔で長く息をついた。

「まだカクテルが効いてるの?」

「……ああ」

「どうしようか?」

今のジョーリィに、この質問は酷である。
行為の選択を委ねられているようで。
気の狂う様な感覚は無いにしろ、喉から手が出る程欲しいのには変わらない。
かと言って真相を話した状況で、余計にフェリチータを抱きたいと口に出来ないのだ。

「だから帰りなさい」

「それは駄目!」

「おい、私は君のことを考え……」

ジョーリィの言葉は途中で止まった。
“君のことを考えて言っている”は、“だから我慢している”とイコールで繋がる。
負担を掛けさせたくないと、身を案じて。
でもそれはフェリチータも同じ。
彼女からすれば、ジョーリィのことを心配しているのだから。
男と女、自分とフェリチータ、違いは多々あるが、もしもフェリチータが似たような立場に陥ったら、その時自分はどうするだろうか。
例え何があったとしても絶対に手を伸ばす。
同等な立場、同じ目線。
遠慮も、変な気遣いも、すれ違うような優しさもいらない。
嘘も、隠し事も。

――そうか、俺と同じか。

ジョーリィはフェリチータの髪にそっと触れた。
それにこうなった時のフェリチータは聞かない。
手を焼く程の頑固さは今までの付き合いで嫌というくらい把握している。

「……いいのか、襲われるぞ?」

最終確認の言葉を掛けてはいるが、紫の瞳は既に色情に満ち溢れていた。

「……うん」

覚悟を決めた緑の双眼はひどく艶かしい。
でも、と恥じらいながら俯く。

「どうしたらいいか分からない……」

顔を赤くしたフェリチータを見て、ジョーリィは小さく笑った。
顎に指を添え、クイッと上を向かせる。
キスをするとフェリチータもゆるく吸い付いてきた。
僅かに開いた隙間に舌先を入れ、徐々に進ませる。
奥まで差し込んで柔らかく掻き回すと、華奢な身体は微かに震えた。

「俺が求めていることなど、フェルにはお見通しだろう?」

ジョーリィの言わんとしていることを理解し、フェリチータはアルカナ能力を発動させる。
彼の心を覆っているのは、フェリチータ自身。
けれども見えた姿は普段の自分からはとても想像つかない淫らな嬌容で。
一気に耳先まで真っ赤になる。

「君に出来るかな?」

ジョーリィがからかうように喉の奥で笑った。

「やる」

負けず嫌いな性格が顔を出し、フェリチータは反射的に答えてしまう。
言ってしまったからには後戻りは出来ない。
ジョーリィの脚の間に座るとシャツのボタンを全て外し、胸板に飾る小さな突起を口に含んだ。
吸い上げて口内で舐め回すと、前歯でカリッと噛む。

「……っ……」

ジョーリィの身体が揺れて吐息が漏れるのが、何故か楽しい。
スルリと伸びたフェリチータの両手は脇腹を弄り、反対の突起も舌先で突っつく。
今まで体験したことのない感触、立場の逆転した状況に、羞恥を感じながらもフェリチータの胸は高鳴った。
躊躇いつつも、胸板に置いた両手を中心に伸ばす。
一目見るだけでジョーリィ自身が熱り立っているのが分かった。

ボトムスに手を掛け、ゆっくりと下着ごと下ろしていく。
ジョーリィは腰を浮かせ自ら引き抜くと、それを丸めて床に放り投げた。
目に映った一瞬は恥ずかしそうにしていたフェリチータも、ついばむようなキスに酔わされ、蕩けた頭で何とか慣れたようだ。
フェリチータはジョーリィの脚の間で正座し、身体を折った。
落ちて行く髪を片手で押さえ、もう片方の手で隆起するモノを包み込む。
その丸い先端に口付けると、ジョーリィはそっとフェリチータの頭を撫でた。

「……無理しなくていい、嫌だろう?」

この行為は初めてだ。
ジョーリィも男。
フェリチータの口内で果ててみたいと切望してはいたが、今まで機会にも切欠にも恵まれず現在に至る。

「嫌じゃない」

フェリチータは顔を上げずに返事をした。
全体に満遍無くキスを落とす。
舌先がキャンディーを舐め回す様に滑った。
ぎこちない動きだけれど、それが余計にジョーリィを煽る。

――何処でこんな知識を得た?

ジョーリィの脳裏に浮かんだ、そんな疑問。
自分は教えていない。
何処かの野郎に仕込まれたのではないだろうが、やはり気になる。
しかし休むことなく与えられる快楽で、頭がまともに働かない。
そうこうしている間に、フェリチータは流れ落ちる髪を掻き上げ、舐め回していたモノを食べた。

「……フェルっ……」

その刺激に、彼女の頭部に置かれていたジョーリィの指先がピクッと動く。
今度は口内にある飴玉を転がすかのように、フェリチータの舌が泳いだ。
思い切り口を開けても、先端と竿の一部分しか入らない。
根本まですっぽりと咥えるのは不可能な大きさだ。
それでも可能な限り多くを口内に納めようと、更に大きく口を開けば顎の間接が軋む音がした。
唇を窄め、首を動かす。
頬の疲労を感じながらも、フェリチータは健気にジョーリィへの奉仕を続けた。

「……くっ……っは……フェリチータ……」

限界はもう其処まで湧き上がって来ている。
滲み出る露と、熱く張り詰めるジョーリィの雄。
硬さを増したモノに歯を立てる事の無いよう、フェリチータは気遣いながら愛撫を繰り返す。

「……顔、離せ……」

切羽詰った声で訴えても、彼女は止まらない。
それどころか絞り出される様に吸い上げ始めた。
物覚えの良いフェリチータは無意識にジョーリィの反応を感知し、事の最中から成長している。
吸い上げられつつ、上下に動かれればもう無理。
ジョーリィは吐息と共に、抑えつけていた白濁を解き放った。

首を後ろに倒して肩で息をするジョーリィが、身体の力を抜いていく。
余韻に漂いそうになった時、小さな咳が聞こえて我に返った。
フェリチータは上体を起こして、濡れた唇の端を手の甲で拭っている。

「だから顔を離せと言っただろう」

そのまま次の言葉を繋げようとしたが、フェリチータが音を発した。

「平気」

控えめな声を上げた口から白濁が流れることも、溜め込んでいる様子も見受けられない。

「飲んだのか?」

「……うん」

「そういう時は吐き出せ。
 ……大丈夫か?」

ジョーリィの問い掛けに、軽く頷く。

「ちょっと苦かっただけだよ」

吐き出すなどと頭に無かったフェリチータは、そのまま飲み干したのだった。
心配そうに自分を見つめるジョーリィが不思議に思えて、小首を傾げる。
この状況でのその仕草は、危険行為に他ならない。
一度欲を放って落ち着いたはずのモノが、再び膨れ上がった。

「今度は君の番だ、フェル。
 容赦しないからな?」

不敵な笑みを浮かべ、ジョーリィはフェリチータの着衣を脱がし始める。

「て、手加減して……」

「却下」

身を翻し、唖然とするフェリチータを組み敷いた。

「冗談だ」

「もう……」

「だが、ご褒美はたっぷり与えよう」

ジョーリィが言い終わる頃には、唇は塞がれていて。
言い方を変えただけで同じ意味では?というフェリチータの思いは、キスの波に流された。
唇を貪りつつ、空いた手はフェリチータの乳房を揉む。
立ち上がった先端を指で遊び、そして嬲る。
段々と下りる唇はフェリチータの肌の上を滑りつつ、胸の先端に辿り着くと口内でそれを弄んだ。

「んっ……あっ……」

先程の行為で火の点いた身体は、巧みな愛撫で急激に燃え上がった。
自分の胸に吸い付くジョーリィの髪を乱しながら、頭を抱きしめるフェリチータ。

「あんっ、んっ……ぁ」

ジョーリィは色付く頂点を甘噛みし、吸い上げ、転がし、舐め回す。
舌先を出して捻くりながら、意地悪く囁いた。

「胸だけでイキそうか?」

「ぃ……ャ……」

「君の嫌がることはしていないはずだが?
 それとも、こっちが物足りないのかな」

胸に添えていた右手を下に移動させると、秘部からは昏々と甘い蜜が湧き出ていた。

「何故こんなに濡れている?」

「そ……そんなの……分かんない……」

隙間に指先が割り入ったことで、溢れ出たフェリチータの愛液は肌を伝い流れる。

「俺だから濡れるのだろう?」

「…………ぅ……ん」

「俺もフェルだから抱きたくなる」

卑猥な音を立てて行き来するジョーリィの指先が、敏感な芽状突起を捕らえた。

「ひゃ、やッ」

生きているかのように動く中指は、時折襞を滑り落ち、また芽へと戻る。
トロトロと湧き出る愛液と、襞に挟まれ滑りを纏った指先が気持ち良い。

「俺が欲しいか」

ジョーリィはフェリチータの顔横に両手を付き、見下ろしながら言った。
既にフェリチータの膝は立てられ、間にジョーリィの身体が入り込んでいる。
彼をおぼろげに見つめたフェリチータは、小さく頷いた。
そして感じた熱く、硬い感触。
襞の間をジョーリィのモノが上下に振動したのだ。
丸みを帯びた矛先がフェリチータの愛液を絡め、より滑らかに動く。
自身に手を添えているジョーリィは、くちゅりくちゅりと淫猥な音を響かせて割れた中心を摩擦し、膨らんだ芽を先端で擦り上げた。

「……ぁッ……っは……」

押し潰される紅い性感帯。
その刺激で果てそうになると、ジョーリィはそこから離れて襞の間を行き来する。
開閉を繰り返す場所へは進入せず、愛液を掬い取る程度。

「や……もう……んっ……ッ」

「まるで泣いているようだな」

フェリチータの柔らかな身体と、止めどなく溢れる潤滑油が絡み付く様を、ジョーリィは楽しんでいた。
入口に押し付けた先端をくるくると回せば、水源である其処は制限無く淫靡な泣き声を上げる。

「入れて……」

快感と羞恥で肌を桃色に染めたフェリチータが掠れた声で乞うと、ジョーリィ自身が僅かに沈んだ。
しかし矛先全ては埋まらず、ギリギリで止められ、そしてまた離れる。

「クックックッ……」

ジョーリィの愉快そうな声が耳を撫ぜた。
静まる部屋にはフェリチータの吐息と、愛液を掻き回す音。
少し沈んでは浮いてしまうモノを放すまいとして、フェリチータの身体が見せる収縮が余計に逃がしている。
引き裂くように貫かれたい。
ジョーリィが欲しいと力の入る場所を押し広げ、強引に割り込んで欲しい。
そして激しく突き上げ、掻き回して欲しい。
快楽を求める感情が渦を巻く。

「……もっと……ぉ……」

自分を切望するフェリチータへ、ジョーリィは腰を少し沈めた。
くぷんと入り込んだ矛先。
でも、また離れて行こうとする。

「や、やだ……お願い、全部入れて……!」

フェリチータの泣きそうな声に、ジョーリィは漸く全てを突き入れた。

「ぅ……あぁッ!!」

「フェル……っ」

ジョーリィを得ただけで、不規則な収縮をみせたフェリチータの蜜壷。
強く締め付けて内部が痙攣を起こすと、ジョーリィも堪らず頂点に達した。

「入れただけなんだが」

「だって………」

「俺も耐え切れなかったがな」

そう言って微笑み、フェリチータの耳許に唇を寄せる。

「もう1回位、付き合えるか?」

「……うん」

繋がったまま囁き合う2人。
サン・バレンティーノの長い夜は、まだまだ続く……。



fine.




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